2026-09-08
日本のインバウンド需要は今、国の指針とともにどう動いているか

作者:ikura インバウンド総合研究所 沼田
訪日外国人旅行者数、旅行消費額ともに高い水準が続いています。一方で、政府が掲げる次の目標は、単に訪日客数を増やすことだけではありません。地方への誘客やリピーターの拡大、旅行消費額の向上、さらには特定の国・地域に偏らない市場の多様化など、インバウンド政策の重点も広がっています。
今回は、最新のデータをもとに、日本のインバウンド需要が今どのように動いているのか、そして、その変化を受け止める観光事業者の現場にどのような課題があるのかを整理します。
2026年も高い水準が続くインバウンド需要
2026年7月の訪日外国人数は344万2,100人で、前年同月比0.1%増となりました。伸び率自体は緩やかですが、7月としては過去最高です。インドネシア、メキシコ、インド、フランスなど17市場が、7月として過去最高を記録しています[1]。
消費額も同様に高水準が続いています。2026年4〜6月期の訪日外国人旅行消費額は2兆5,096億円で、前年同期比0.2%増となり、第2四半期として過去最高を更新しました[2]。注目したいのは、1人当たりの旅行支出です。同期は24万4,457円で前年同期比3.3%増となり、1〜3月期の22万1千円からも上昇しています。一方で平均泊数は8.7泊と、前年から0.7泊減少しました[2]。費目別に1人当たりの支出を見ると、宿泊費が9万482円で最も多く、買物代6万5,425円、飲食費5万3,143円と続いています[2]。
滞在日数は短くなりながら、1人当たりの支出は増えている。急激な右肩上がりというよりも、旅行者数と滞在日数が落ち着くなかで、消費の中身が変化しているのが現在の特徴です。
訪日市場の多様化も進んでいる。欧米豪と東南アジアがキープレイヤー
この成長は、どの市場でも均一に起きているわけではありません。2026年7月は、東南アジアではタイやマレーシア、欧米豪では米国やフランスなどで訪日客数が増加しました[1]。7月として過去最高となった17市場には、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、米国、カナダ、メキシコ、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、北欧地域、中東地域など、幅広い国・地域が含まれています[1]。
訪日市場が広がるということは、観光事業者が接する旅行者の言語や文化的な背景も、一層多様化するということです。英語だけですべての旅行者に対応できるわけではありません。特定の市場に依存しない体制をつくるうえで、多言語での受け入れ環境をどう整えるかが実務上の課題になります。
政府が目指すのは「6,000万人」だけではない
2026年3月27日、政府は2026年度から2030年度を対象とする観光立国推進基本計画(第5次)を閣議決定しました。2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人、消費額15兆円という大目標は据え置かれています。
一方で、第5次計画では、訪日外国人旅行者に占める「リピーター4,000万人」、「地方部における延べ宿泊者数1.3億人泊」、「旅行消費単価25万円」といった、質的、分散型の目標も掲げられました[3]。つまり、単に訪日客数を増やすのではなく、一度訪れた旅行者に再び日本を訪れてもらうこと、都市部だけでなく地方にも足を運んでもらうこと、そして一人ひとりの滞在価値を高めることが、これまで以上に重視されています。
さらに、第5次計画では「様々な国・地域への戦略的な訪日プロモーション」も掲げられています[3]。国際情勢や市場環境の変化による影響を抑えるためにも、特定の市場だけに依存せず、訪日市場を多様化していく方向が示されています。

地方誘客を進める一方、受け入れ側では人手不足が続く
こうした目標を実現するには、旅行者を受け入れる現場の体制も必要です。しかし宿泊業をはじめとする観光の現場では、人手不足が続いています。観光庁も2026年の事業資料で、インバウンドをはじめとする観光需要の回復に伴い、宿泊業の人手不足が顕在化しているとしています[4]。地方への誘客を進めれば、これまで訪日客への対応経験が比較的少なかった地域や、小規模な事業者が海外旅行者を受け入れる機会も増えていきます。
その一方で、限られた人数で日々の接客や運営を行いながら、多言語での問い合わせや営業時間外の対応まで担うのは簡単ではありません。訪日需要を地方へ広げていくという国の方針と、それを実際に受け止める現場の体制をどう両立させるか。これが、今後ますます重要になる課題です。
増える「国籍・言語・時間帯」にどう対応するか
市場が多様化すると、問い合わせ対応も複雑になります。
旅行者の居住地域によって時差があるため、日本の営業時間外に問い合わせが届くこともあります。また、問い合わせの言語も英語だけとは限りません。
「子どもも参加できますか」
「食事制限に対応できますか」
「荷物を預けられますか」
「到着が遅くなっても大丈夫ですか」
こうした質問は、旅行者にとって予約前に確認しておきたい重要な情報です。必要な回答が得られなければ、旅行者が別の候補を検討する可能性もあります。すべての問い合わせを人が24時間対応するのは現実的ではありません。だからこそ、よくある質問は仕組みで対応し、スタッフの判断が必要な問い合わせだけを人につなぐといった役割分担が重要になります。

旅行者が使い慣れたチャネルで問い合わせを受け止める
問い合わせ対応では、言語や時間帯だけでなく、「どのチャネルで旅行者とつながるか」も重要です。WhatsAppは世界で30億人を超える人々に利用されています[5]。
海外旅行者にとって、普段から使い慣れたメッセージアプリで施設へ質問できることは、問い合わせの負担を下げる方法の一つです。訪日市場がさらに多様化していくなかで、旅行者側の利用環境に合わせて接点を用意することも、受け入れ環境を整える方法の一つです。
限られた人員でも、多言語で旅行者との接点を維持するために
私たちikuraは、WhatsAppと連携し、訪日外国人からの問い合わせ、予約、決済に50ヵ国語で24時間対応するAIエージェント「AIインバウンド担当」を提供しています。施設が持つ情報をもとに旅行者からの質問へ自動で回答し、必要に応じてスタッフによる対応につなげることで、営業時間外にも旅行者との接点を維持します。
これからのインバウンド対応では、単に「訪日客が増える」ことへの対応だけではなく、訪れる地域、国籍、言語、問い合わせの時間帯がさらに多様になっていくことを前提に、受け入れ体制を考えていく必要があります。国が地方誘客やリピーター、市場の多様化を進めるなか、まずは自施設で「どの国・地域の旅行者から」「どの言語で」「どの時間帯に」問い合わせが届いているのかを確認してみてはいかがでしょうか。
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https://www.ikura.io/
出典
[1]日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年7月推計値)」
2026年8月19日発表。7月の訪日外客数は344万2,100人、前年同月比0.1%増。17市場で7月として過去最高を記録。
https://www.jnto.go.jp/news/press/20260819_montly.html
[2]観光庁「インバウンド消費動向調査2026年4-6月期(1次速報)の結果について」
2026年7月15日発表。旅行消費額は2兆5,096億円、前年同期比0.2%増。1人当たり旅行支出は24万4千円。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_00094.html
[3]観光庁「観光立国推進基本計画(第5次)」
2026年3月27日閣議決定。計画期間は2026年度から2030年度までの5年間。
2030年の訪日外国人旅行者数6,000万人、旅行消費額15兆円に加え、リピーター4,000万人、地方部延べ宿泊者数1.3億人泊等の目標を設定。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku.html
[4]観光庁「地域一体となった観光産業の効率化支援事業」
宿泊業では観光需要の回復に伴い人手不足が顕在化しているとして、労働生産性向上等の取り組みを支援。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/kobo06_00076.html
[5]Meta, "It's Time to Reserve Your WhatsApp Username" 2026年6月29日公開。WhatsAppの利用者が世界で30億人を超えることを記載。
https://about.fb.com/news/2026/06/its-time-to-reserve-your-whatsapp-username/
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